Empirical Estimation of the Propagation of Investment Spikes over the Production Network
Makoto Nirei

概要
企業の投資行動は、しばしば時期的に集中して起こることが知られている。このような集中的な投資は「投資スパイク」(investment spikes; lumpy investment; 塊投資)と呼ばれている。経済学文献では、ある企業・ある年の粗投資/資本比率が20%を超すことを投資スパイクと定義することが多い。この定義のもとで投資スパイク率を計算すると、本論文の用いるデータセットでは13.5% (標準偏差 21.6%)にのぼる。さらに投資スパイクの動向は、マクロ的な設備投資と強く相関することが指摘されている。本論文のデータセットでは、投資スパイク総量は設備投資総量の1/3を占め、両者の成長率の相関係数は95%もの高さを示す。 本論文では、投資スパイク行動にサプライチェーン(顧客・サプライヤ)が及ぼす影響を分析した。企業投資は顧客・サプライヤの影響を強く受けるため、顧客・サプライヤの投資スパイクが当該企業の投資スパイクと連動する可能性がある。本論文では、このような投資スパイクのサプライチェーン上での連動が総投資動向に及ぼす影響を定量的に分析した。 まず、取引企業間における投資行動の戦略的補完性を定量的に推定した。顧客(川下企業)が投資スパイクをすると、その企業の将来の中間財需要が増大するために、その企業のサプライヤ(川上企業)の投資スパイクが起こる確率が高まる。同様に川上企業の投資スパイクは、その財の将来の相対的な価格低下によって川下企業の投資を誘引しうる。推定の結果、投資スパイクは川上側にも川下側にも投資スパイク確率を引き上げる効果を持つことが統計的に有意に示された。推計値から計算すると、1つの投資スパイクにつき、平均で0.088の投資スパイクが川上と川下の企業で起こることが分かった。このことから、企業設備投資の10%弱はサプライチェーン上の連動に起因しており、そのマージンの確率変動は景気循環における企業投資変動に無視できない影響を与えることが示唆される。簡略な推定手法を用いれば、データ上で観測される投資スパイク総量の年々の平均偏差0.081のうち、その32%に相当する部分が本モデルから説明しうることが分かった。 さらに、投資スパイクの周期と同期確率の相関を分析した。投資スパイクが起こる原因の一つに資本投資の不可分性がある。工場の新設など、資本調節は離散的にならざるをえない面があるためである。資本投資が不可分であるとすると、その不可分性の大きさに応じて、企業・産業ごとにスパイク周期が異なることが考えられる。その場合、似たようなスパイク周期を持つ取引企業同士は、互いの投資タイミングを引き込み合うことによって投資の同期確率が高くなることが考えられる。本論文のデータセットでスパイク周期偏差ごとの同期確率を調べたところ、近い周期を持つ取引ペアは統計的に有意に同期確率が上昇することが確認された。
参照
"Empirical Estimation of the Propagation of Investment Spikes over the Production Network", Makoto Nirei, CREPE Working Paper (CREPEDP-159) / RIETI DP (2024).